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奈良の工芸を次代につなぐ伴走型リブランディング成果発表会~対話を通して初めて見えた課題とは。そして工芸が『Cross』する未来とは~

aeru re-branding

クライアント
奈良市観光経済部産業政策課、なら工藝館
業種
自治体
所在地
奈良県奈良市

奈良の工芸を次代につなぐために発足した、「Nara Crafts’ Cross Project」。半年間にわたる和えるの伴走型リブランディング事業。行政が主体となり、予めゴールを定めず、対話を通して伴走型のリブランディング支援を行う。全国的に見ても新しいこの取組が、どのような実を結んだのか。

「『伝統』と『革新』。どちらも既に、自分の中にあった」
「過去を振り返ることで、奈良漆器作家としての自分を再確認できた」
「作り手と伝え手だけでは限界がある。持ち帰って語りたくなる『語り手』を増やすことが鍵」

今回の参加者である奈良工芸作家のお二人、そして、工芸と他分野を掛け合わせた活動をされているパイオニア的ゲストのお二人をお迎えし、なら工藝館のギャラリー阿字万字にて伴走支援の成果発表会を行いました。
和える執行役員の髙橋が聞き手となり、皆さんにお話しを伺いながら、伴走型リブランディングの内容や成果を、余すところなくお届けします!


なら工藝館(奈良市阿字万字町1-1)

Nara Crafts’ Cross Projectについて

Nara Crafts’ Cross Project とは、“次代の工芸作家のフロントランナーを創出する”をコンセプトに、次代の工芸作家の活躍を多面的に支援するプロジェクト。「伴走支援×公開講座×販路拡大」と3つの切り口から構成されています。
Nara Crafts’Cross Projectでは、昨今の変化の激しい時代の中でも自分自身のビジョンや戦略を見据え、工芸活動を営む方々に対し、経営やブランディング、マーケティングというアプローチからの多角的な支援を通じて、工芸作品や技術を新たな時代につなげていくための取組を行います。

第一部 課題も答えも、既に自分の中にあった。対話を重ねて初めて見えたものと

成果発表会第一部では、伴走支援参加者である工芸作家のお二人に、それぞれの半年間を振り返っていただきました。
和える 髙橋和えるの伴走型リブランディング支援は、いわゆるコンサルティングとは異なります。大きく違うのは、課題やゴール設定が人それぞれ異なるということ。お一人おひとりとの対話をベースに、まだ言葉になっていない課題や、作家としての魅力、そしてそれを伝えるために、どのような手段を取るべきかといった道筋を、一緒に紐解いていきます。

「伝統」と「革新」。全て、自分の中に既に存在していた


パネリスト
大塩(おおしお)ほさな氏。赤膚焼作家。


和える 髙橋伴走型リブランディングが始まる前、ほさなさんご自身は、どのような課題を感じられていましたか。

大塩氏作家としてやりたいこと、作りたいものはありましたが、どこかぼんやりしていました。私は、制作の中でも特に絵付けが得意で好きなのですが、自分の作品や、他の方が成形されたものにも絵付けします。自分の絵付けが色々な人の手に渡っていく中で、自分の作風を言語化する必要性はいつも感じていました。

和える 髙橋ほさなさんの細やかな線画、赤膚焼、奈良絵。伴走支援が始まった当初は、それら複数の要素が、ご自分の中では共存してはいるけれど、初見の方にはつながりが分かりにくい状態でした。

大塩氏セッションを経て言語化が進むうちに、実は全てがつながっていたことが分かりました。

和える 髙橋工芸の未来には、「伝統」と「革新」の両方が必要だと思いますが、赤膚焼らしさという伝統を残しながら、ほさなさんの細やかな線が革新を表現している。そんな「赤膚焼作家としての大塩ほさな」の世界観を語る言葉を、一緒に紡ぐことができたのではないでしょうか。

和える 髙橋また、従来作られていた絵付けの作品は、どうしても制作時間がかかるため、高価なものが多い状況でした。

言語化を通して、一本の軸が通った「赤膚焼作家大塩ほさな」の世界観を、できるだけ多くの方に届けたい。その想いを再確認し、より暮し手に届きやすい大きさ、価格帯のエントリーモデルの開発も、ご一緒させていただきました。

大塩氏絵付けがしやすい形を考えたり、短時間で多くの数を作れる大きさにしたりと、試行錯誤しました。既にいくつかエントリーモデルが完成したので、手に取ってもらえるのが楽しみです。今後、オンラインでも販売していきたいと思っています。(大塩氏のECサイトはこちら

和える 髙橋セッションの回数を経るごとに、ほさなさんの表情がより一層明るくなっていく様子が印象的でした。作品に込めた想いを語る際も、開始当初と比べ、格段にスムーズに言葉が出てくるようになられたと感じます。ご自身を振り返って、いかがでしょうか。

大塩氏セッションを通じて言葉や表現にこだわり、複数人で「ああでもない、こうでもない」と吟味しあう時間が、とても貴重だったと思います。その中で、自分の中でしっくりくる、こない、といった感覚が磨かれていったのかもしれません。

和える 髙橋人によって使用している言語域が違うので、自分以外の第三者からのコメントやフィードバックを通して、言葉の純度や精度を上げていく感覚、とも言えるかもしれませんね。

自分と違う価値観や背景を持った方と、言語化を意識して対話する。そんな対話を重ねることが、より多くの方に伝わる言葉を紡ぐ、一つのヒントになるのではないでしょうか。

なぜ、「奈良」で「漆」なのか。「奈良漆器」作家としての自分を再確認できた


パネリスト
北浦雄大氏(きたうらゆうだい)氏。奈良漆器作家。

和える 髙橋北浦さんは、伴走型リブランディング開始時、どんな課題を感じられていましたか。

北浦氏作家として、独自のスタイルは既に確立していました。実は何かを課題として認識していたわけではなく、今回の伴走型リブランディングを通して、「なぜ奈良なのか?」という問いに向き合い、「奈良漆器」作家としての自分を再確認できたと思います。

和える 髙橋ご自分では認識していなかった課題が見えてきた、ということでしょうか。
実は、和えるがこれまで伴走させていただいた事業者様でも、対話を重ねて初めて「これが課題だったのか」と分かるケースも多々あります

和える 髙橋北浦さんとは、「奈良漆器と北浦さんの関係性」について紐解いていきましたが、具体的にはどのようにセッションが進んでいったのでしょうか。

北浦氏「自分にとって奈良漆器とは何なのか」をセッション内で問いかけていただき、宿題として持ち帰り、改めて色々と調べました。調べていくうちに、漆は古くから様々な素材に、様々な技法で使われてきたことが分かりました。

和える 髙橋過去を振り返って見たときに、北浦さんが既に作家としてなされていることと、漆の歴史に、共通点が見つかったのですよね。

北浦氏はい。「色々な素材と漆」という考え方や実践が、過去に既に存在していたことが分かりました。例えば、東大寺二月堂のお水取りで使用される「日の丸盆」、興福寺の阿修羅像や、飛鳥・奈良時代の伎楽面にも漆が使われています。食器、調度、武具・建造物にも使われ、様々な役割を果たしてきた。

私自身、3Dプリンターで支持体を制作し、漆を施す手法を取っていますが、異素材と漆を融合させるという点において、実は奈良の漆文化を引き継いでいたんですね。

和える 髙橋奈良漆器の歴史、文化を振り返ることで、今後の北浦さんの作家活動に変化はありそうでしょうか。

北浦氏そうですね。個展などでお客様とお話しする場面などで、なぜ「奈良漆器」なのか、という部分と自分の作家性とが、しっかりつながって語りやすくなったと思います。

▲大丸梅田店11階「ART GALLERY UMEDA」にて開催された個展にて

和える 髙橋他に、セッションを通して印象に残っているトピックはありますか。

北浦氏私は今、京都の芸大で非常勤講師を務めていますが、学生向けのアートプロジェクト企画を構想しています。昔使われていた技術、例えば密陀絵(みつだえ)や漆皮(しっぴ)、末金鏤(まっきんる)などといった技術を教えられる方と、現在漆を学んでいる学生や作家とをつなぎたいと思っています。共に学ぶ場をつくり、学んだ技術を自身の表現に取り入れたり、現代の解釈を加えても面白いですね。

和える 髙橋この取り組みは、北浦さんにしかできない「伝統工芸のつなぎ方」だと私たちも感じています。奈良に住み、例えば弟子をはぐくみ雇用を生み出すという方法ではなく、未来を担う学生や若手作家と、漆の技術や歴史との架け橋となる。地元に根付くだけではない、地域・工芸との関わり方を体現されていると思います。

第二部 工芸×『〇〇』。工芸が 『Cross』する未来を握るのは、「語り手」の存在

第二部では、二人のゲストスピーカーをお招きし、「工芸×『〇〇』、工芸が 『Cross』する未来に向けて」というテーマでクロストークをお届けしました。


パネリスト
岡井大祐(おかい だいすけ)氏。株式会社岡井麻布商店 代表取締役。

▼前年度の伴走支援で、コンセプトづくりをご一緒させていただきました。(前年度の様子はこちらよりご覧いただけます)


パネリスト
鬼木翔平(おにきしょうへい)氏。株式会社Tale Navi 取締役。

▼「わたし好みに出逢う」というコンセプトで、日本茶や日本酒の飲み比べ等の体験や、店内の設え・備品を通して伝統工芸に出逢う場づくりを手がけられています。

「作り手の想い」と「伝え手の熱」が、買い手の心を動かす

和える 髙橋第一部のお二人は、これから工芸と〇〇をクロスさせていくステージかと思います。本日のゲストスピーカーのお二人は、既にクロスさせている、いわばパイオニア的存在。お二人はそれぞれ、工芸と「何」をクロスさせているのでしょうか

岡井氏私は、「工芸と暮らしのモノ」ですね。奈良晒でスツールを張ったり、革財布の内ポケット用に、初めて奈良晒を染めてみたり。それから、ずっとチャレンジしたいと思っているのは、奈良晒だけで作るコップですね。

和える 髙橋面白いですね!これまでとは違う毛色のモノ、新しいモノを作りたい、という想いが強いのでしょうか。

岡井氏そうでないと、買い手に響かないですから。自分自身が「面白い!」とワクワクしていないと、買い手には伝わらないと考えています。

▼写真右:「工芸×プロダクト」の一例として、岡井麻布商店が内ポケットを手がけた。

和える 髙橋鬼木さんは、作り手が作ったものを伝える側として活動されているかと思います。やはり、作り手の「ワクワク感」は大切な要素でしょうか。

鬼木氏そうですね。作り手の想いが買い手の心を動かすことは確かです。ただ、それだけでは足りないとも考えています。

私たちTale Naviは、主にインバウンドのお客様向けに、日本の文化体験ができる場を提供しています。いわば、「工芸と文化体験」のクロスですね。

鬼木氏結局、日本に来られる海外の方は、「日本人になる」体験がしたいのではないかと思うのです。日本人になりきる体験が、「(自国に帰っても)語りたい!」と思う語り手を育て、結果的に日本のモノ、工芸品を持ち帰っていただける、この順番が大切だと考えています。

和える 髙橋例えば、茶道体験に参加されたゲストが、赤膚焼のお茶碗、奈良晒の茶巾、高山茶筅を使って抹茶を点て、「日本人になりきれた!」と体験そのものにとても満足する。良い体験だったので、自宅でも点てるためにお道具を揃えたいと思う。そこで初めて、作家の想いや工芸の歴史、職人の技術などをお伝えする。この順番が大切ということですね。

地域の中と外。双方からの魅力発信が鍵

和える 髙橋鬼木さんが、活動拠点を奈良に置かれている背景は何でしょうか。

鬼木氏実は私、奈良に所縁があるわけではないのです。

これまで色々な場所にいったり新しいモノに出逢ったりしましたが、その背景や関わる方の想いなどを深く知れる場があまりないな、と感じていました。自分の好奇心を原動力に、自分で調べていくしかなかった。

ただこれからの時代、オンラインで何でも調べられ、何処とでもつながれる今だからこそ、「人が直に話して伝える」ことに、より一層価値が置かれるようになると思います。

熱量を持って、人から人へ伝えられる場を作りたい、という私自身の想いと、「奈良にはまだ、伝えられていない魅力がたくさんある」という経営パートナーの想いから、奈良を活動拠点とすることに決めました。

和える 髙橋なるほど。
奈良の外の方が、このように奈良に関わり伝え手となっていく取り組みは、まだ新しいのではないかと思います。岡井さん、いかがでしょうか。

岡井氏奈良を伝えるのが、必ずしも奈良の中の人である必要はない、と考えています。例えばですが、私たちが福井のモノを発信したっていい。外からの視点で、中の人が気づかされることも本当にたくさんあります

和える 髙橋そうですね。鬼木さんから見て、奈良の魅力で伸びしろを感じる部分はありますか。

鬼木氏例えば、鹿と戯れて帰るだけの方も多くいらっしゃるのはもったいないと感じます。そこからもう一歩二歩深く、どのような体験が求められているかの深掘りが必要だったり、奈良に残っている原風景を再評価したりすることが、ヒントになるのではないでしょうか。

作り手と伝え手の熱量で、「語り手」を増やす

和える 髙橋異なる分野で工芸と〇〇をクロスさせているお二人ですが、何かお互いに聞きたい点はありますか。

岡井氏海外のお客様と接する中で、一番大事にされていることは何でしょうか。

鬼木氏伝え手である自分たちができることには、限界があると思っています。実際に見、聞き、体験したお客様ご自身が語りたくなり、「語り手」になって帰ってもらう。それが目指すところですし、大切にしていることですね。

和える 髙橋「好き」を伝えていく、語り手をどれだけ増やしていけるか。アンバサダーのような語り手を増やすことが、作り手と伝え手のその先に魅力を届けるヒントになりそうですね。

▼Tale Navi様店内。左下は、赤膚焼作家 菅原氏のもの。

和える 髙橋最後に一言ずつ、工芸を次世代につないでいくために大事にされていることを教えてください

岡井氏常に「学ぶ」姿勢を大切にしています。奈良から一歩外に出て、奈良の魅力を伝える場面では特に意識しています。

例えば、東京の一等地で出展する際には、言葉一つ、立ち振る舞い一つが、真剣勝負です。関西では「親しみやすい人」でもいいかもしれません。ですが、自分の手がける「モノ」自体の価値を届ける、感じていただくには、所作も一流でなければならない。日々学び、日々研鑽です。

鬼木氏先ほども少しお話しましたが、「熱量」がキーワードです。
作り手の持つ想い、熱量を、まずは自分たちが纏う。その熱をお客様に届け、そこで生まれる熱を、また作り手に還元する。
私たち自身が熱を帯び、熱の渦の中心にいること。熱の還元、循環をいかに生むかを大切にしています。

和える 髙橋ありがとうございました。

伴走型リブランディング支援に、ご興味をお持ちの方へ

地域の工芸や地場産業をさらに盛り上げ、官民一体となって次世代の活躍を支援していきたい。和えるでは、そのようなお考えをお持ちの自治体様をお手伝いをする、伴走型リブランディング支援事業を進めております。

同一の工芸や産業でも、抱える課題は千差万別。和えるの伴走型リブランディング支援では、お一人おひとりとの対話を重ねることによって、会社やブランド、モノづくりの原点に立ち戻り、「自分たちは何のために存在しているのか。」その本質を問い直し改善策を共に考案、未来へつなげるための具体策を提供いたします。

また、各業界からプロの講師を招いた公開講座の設計やイベント企画、メディアへのアプローチなど、様々な角度でお手伝いさせていただくことが可能です。

和えるの伴走型リブランディング支援事業へご興味をお持ちの方は、お気軽にこちらまでお問い合わせくださいませ。

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