2019.06.07
「日本料理を次世代につなぐ」トークイベントを開催しました!
2013年、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」。
豊かな自然と先人の智慧によって育まれた日本の食文化は、私たち和えるが次世代につないでいきたい伝統の一つでもあります。
今回は「日本料理を次世代につなぐ」をテーマに、和食のユネスコ無形文化遺産登録を後押しする活動の主体を担った、日本料理アカデミーさんと開催したトークイベントの様子をお届けします!
登壇者のご紹介
嵐山 熊彦 料理人 Jonathan Franklin Klipさん
カナダ出身。バンクーバーの庖丁店で働き、和庖丁の魅力に開眼し日本料理にも興味を持つ。ニューヨークでミシュラン星付きの懐石料理店や寿司店での調理経験を経て、平成29年度に農林水産省の研修プログラムにより半年間嵐山熊彦で研修を受ける。技術だけではなく、日本の文化等をさらに勉強し、引き続き嵐山熊彦で日本料理を探求したいと考え、京都市の特区制度(※)に応募し同店で働きながら学んでいる。
美濃吉竹茂楼 料理人 George Anthony Paulさん
アメリカ合衆国出身。アメリカ・マサチューセッツ州のレストランでの調理経験やシンガポールでの日本料理研修を経て、平成29年度に農林水産省の研修プログラムにより、半年間美濃吉竹茂楼で研修を受ける。研修後に一旦帰国したが、技術だけではなくおもてなしの心等についてもさらに勉強するために、引き続き美濃吉竹茂楼で日本料理を探求したいと考え、京都市の特区制度(※)に応募し、同店で働きながら学んでいる。
※京都市特区制度とは
正式名称は「京都市地域活性化総合特区」。全国で唯一、京都市内に限って 「外国人の日本料理店での就労」の特例措置が認められており、特定伝統料理海外普及事業として外国人料理人の受入れを通じて日本料理を海外へ普及する取り組み。
京都調理師専門学校 和食・日本料理上級科学科長 宗川裕志さん
広島県出身。「船場 吉兆」(大阪)にて勤務。第一回日本料理コンペティション近畿・中四国地区予選 大会優勝、本戦3位入賞。京都調理師専門学校で生徒の指導するかたわら、味覚研究の学者陣と料理を科学的なアプローチによりデザインしていく日本料理ラボラトリーにも参加し、精力的に活動している。NPO法人日本料理アカデミー会員。京都府調理師会理事。
株式会社和える代表取締役 矢島里佳
東京都出身。職人と伝統の魅力に惹かれ、「日本の伝統を次世代につなぎたい」という想いから、株式会社和えるを創業。2012年3月、幼少期から職人の手仕事に触れられる環境を創出すべく、“0歳からの伝統ブランドaeru”を立ち上げる。日本の伝統を泊まって体感できる“aeru room”、日本の職人技で直す“aeru onaoshi”など、日本の伝統や先人の智慧を、暮らしの中で活かしながら次世代につなぐために様々な事業を展開中。
満員御礼!トークイベントの開始です。
矢島
「お二人はなぜ、日本料理の料理人になろうと思われたのですか?」
Anthonyさん
「日本料理のエッセンスである”おもてなし”にとても共感したからです。
もともと料理人として、ビジネスとして料理をするだけではなく、食を通して人を幸せにしたいという志を持っていたのですが、日本料理に出会ったとき、おもてなしという精神性は自分が料理人として志す部分と重なるところが大きく、とてもしっくりきました。」
宗川さん
「学校で日本料理を学生に教えるときに重要視しているのは”サービス”です。
いくら美味しい料理が出来上がっても、お客様に食べていただくまでの間に粗相があってはいけませんし、食事の空間も含めて”日本料理”だということを理解する前と後とでは、厨房に立つ学生の目の色が違いますね。」
矢島
「”空間も含めて日本料理”という話が出ましたが、欧米の料理と日本料理はどういう違いがあると感じられますか?」
Johnさん
「日本料理は、関わっている職人が多いなという印象があります。
包丁ひとつとっても、カナダではホームセンターで包丁を買うこともありますが、日本料理には和包丁を専門で作る職人がいます。」
Anthonyさん
「私は2つあると思います。1つ目は日本料理が独自の発展を遂げてきたこと。特に、江戸時代に鎖国をしていたため、他国の影響を大きく受けることなく、日本料理の文化が育まれてきました。
2つ目は、器も含めての料理だということ。日本料理に使われる食器は色・サイズ・形、どれをとっても実にバラエティ豊かだと感じます。」
宗川さん
「器もそうですし、食事をする空間や時間も含めた美しさを求めるのが日本料理の特徴かもしれません。
日本料理は箸を使って食べるので、ポーションが大きすぎるとお客様が食べづらい。見た目の美しさだけを考えると、大きいポーションの方が見栄えが良い場合もありますが、お客様が食べづらさを感じてしまうと、それはトータルとして美しいとは言えない。
見た目だけではなく、食べる側の立場にたったおもてなしの心まで含めて、日本料理の美しさだと思います。」
▲(左から)通訳の高本さん、Anthonyさん、Johnさん、宗川さん、矢島
ここでイベントに参加されていた京焼の職人さんからこんな質問が。
「日本料理の特徴の一つとして”お箸を使う”という点が上げられると思っており、京焼もお箸で食べられることを前提として作られています。欧米はナイフとフォーク文化だと思うのですが、お二人はお箸に関して、どのように考えられていますか?」
Anthonyさん
「アメリカでも中華料理を始めとしたアジア料理が広まっており、日常でお箸を使う機会はとても増えました。フォークやナイフはデリケートな食材を崩してしまうことがありますが、お箸は食材をいたわり、感謝の気持ちがより表せる道具だと思います。」
宗川さん
「盛り付けの際にも同じことが言えると思います。トングやピンセットだと、どうしても素材が傷ついてしまいますが、箸を使うと繊細な盛り付けができます。それが、日本料理の繊細な美しさにつながっているのかもしれません。」
矢島
「今、日本料理を食べられる海外の方が増え、需要が増えている中で、日本料理界の課題になるであろうという点に、料理人不足が挙げられるとお聞きしました。この点について宗川さんはどうお考えでしょうか?」
宗川さん
「その点については、業界でも色々と策が講じている最中です。適切な労働時間の管理や、お店によっては海外の料理人をマネージャーとして雇い、働きやすい環境を整えているところもあります。」
矢島「昔のイメージとは異なり、日本料理の料理人さんの働き方も、変化してきているのですね。」
あっという間に一時間が過ぎ、矢島はトークイベントをこう締めくくりました。
矢島
「外国人のお二人との対話から見えてきたのは、日本料理の魅力は料理単体というよりも、おもてなしの精神性からなる総合芸術だと言うことでした。
Anthonyさん、Johnさんと話していて、とても日本人的な魂を感じました。国籍にとらわれず、日本の精神性を持った方が日本料理をつないでいく。日本料理界自体が、そんな過渡期にいるのではないでしょうか。
また、日本料理の技術をただ習得するだけではなく、背景にある歴史や文化、精神性を学ぶと、日本料理を総合的に理解できるのではと、本日お三方のお話をお伺いして感じました。」
日本料理の魅力に心を惹かれカナダとアメリカより来日し、京都の老舗料理店で修行を積んでいる若手料理人のJonathanさん・Anthonyさんと、専門学校で次世代を担う学生に日本料理を教えている宗川さん、それぞれ違った角度から日本料理についてのお話を伺うことができました。
参加者のみなさまからは、
「日本料理の概念が変わった。”おもてなし”という言葉が日本料理の大前提にあることを知り、とても感動した。そして、日本料理自体が総合芸術であり、それが完成するまでにたくさんの職人さんがいることにとても感動した。」
「日本料理とスタイルとして捉えるのでは無く、「心」を大切にする日本文化として捉えているのが印象的で同感出来た。」
「当たり前に思っている箸や京焼の器の見方が変わった。いただきますと言う文化を大切にしたいと思った。」
などのお声をいただきました。
身近だからこそ、深く知る機会が少なかった日本料理。
そんな日本料理を次世代につなぐための取り組みをされているのが、
今回イベントを共催させていただいたNPO法人日本料理アカデミーさんです。
日本料理が総合的に理解できる「日本料理大全」の制作・出版や、
日本料理への総合的な理解度をテストする「日本料理アカデミー検定」など、様々な活動をされています。
▲「日本料理大全」はプロローグ、向板など4巻が発行されており、今後さらに4巻発行される予定(2019年6月現在)
▲プロローグ巻。技術だけでなく、日本料理を取り巻く歴史や文化についても丁寧に記されている
▲向板Ⅱ 切る技法 魚介類、鳥類、野菜の巻。日本料理が全く初めての方でも理解できるよう、写真を交えて詳細に説明されている
▲「日本料理アカデミー検定」はオンライン上で誰でも無料で受験することができる
特定非営利活動法人 日本料理アカデミーについて
日本料理の発展と普及のため、NPO法人として2004年に設立。日本国内はもとより世界各地で生活する人々に対して、日本料理に関する教育および文化・技術研究ならびにその普及活動に取り組んでいる。日本料理の理解の促進とその魅力向上に寄与することを目的とし、食文化の発展と人材育成、次世代に向けた食育活動、世界の料理人との交流事業等を実施。