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工芸は未来につなぐべきか?過去を振り返り、本質を言語化する伴走型支援
aeru re-branding
- クライアント
- 奈良市観光経済部産業政策課さん、奈良商工会議所さん
- 業種
- 自治体
- 所在地
- 奈良県奈良市
奈良の工芸を次世代につなぐために発足した「Nara Crafts’ Cross Project」。
本記事では、2022年9月27日に行われたキックオフセミナーの様子をレポートします。
「リブランディングとは何なのか?」
「そもそも工芸をつないでいくべきなのか?」
「伝統工芸の未来に向けて、何ができるのか?」
など、盛りだくさんでお届けいたします!
Nara Crafts’ Cross Projectについて
Nara Crafts’ Cross Project とは、“次代の工芸作家のフロントランナーを創出する”をコンセプトに、次代の工芸作家の活躍を多面的に支援するプロジェクト。「伴走支援×公開講座×販路拡大」と3つの切り口から構成されています。
Nara Crafts’Cross Projectでは、昨今の変化の激しい時代の中でも自分自身のビジョンや戦略を見据え、工芸活動を営む方々に対し、経営やブランディング、マーケティングというアプローチからの多角的な支援を通じて、工芸作品や技術を新たな時代に繋げていくための取組を行います。
第一部 リブランディングの本質と成果
キックオフセミナー第一部では、2014年以来8年間に渡って伴走型リブランディングをご一緒させていただいているマコト眼鏡さんをお迎えしました。伴走型リブランディングとは何なのか、対話の中で紐解いていきます。
パネリスト
マコト眼鏡(まことがんきょう)様
福井県・鯖江市の眼鏡メーカー。職人の技を活かし、かけ心地の良さを追求したオリジナルブランド『歩』-AYUMI-を手掛ける。
過去を振り返ることで見えた、ブランドの本質
和える 矢島:マコト眼鏡さんとは、2014年に『歩』ブランド15周年を迎えるにあたりお声がけいただき、それ以来約8年間ご一緒してまいりました。
これまでのリブランディングを通して、どんな変化があったのでしょうか。
マコト 増永氏:一番衝撃的だったのは、「今まで来た道を振り返ってみては?」という一言でした。当時は、先へ先へと進むことや、次はどうしようという未来のことばかり考えていたのですが、「過去を振り返る」という発想は、自分たちでは気づかなかった新鮮な視点でした。
2014年にリブランディングがスタートし、2015年には成果が如実に現れました。取り扱い店舗数が1.33倍、売上は1.27倍に伸びました。
この成果の要因を振り返ってみると、リブランディング前は「どんな眼鏡を作っているのか」「お客さまにどんなモノを届けたいのか」という核をはっきりと持っていなかったように思います。ブランドの本質を振り返り、言語化したことが大きかったですね。
和える 矢島:数値目標を先に決めて、それに向かう方法も確かにあるかもしれません。ですが和えるが大切にしているのは、このブランドは何のために生まれたのか、どういう文化をお客さまに伝えていくのか、といった本質の部分。本質が見えたら、あり方も変わる。そして、必然的に数字もついてくるものだと思います。
マコト眼鏡さんも本質の言語化ができたことで、それまでやや八方美人的なになっていた売り方を、思い切って『歩』ファンだけに応えるという姿勢に変えることができたんですよね。
そのとき、社長が「心が落ち着いた」とお話されていたことがとても印象に残っています。
マコト 増永氏:それまでは、他社がどう、数値がどう、ということばかりが気になっていました。リブランディングを経て、「どのような喜びをお客さまに伝えていきたいのか」ということに集中できるようになり、他社のことは気にならなくなりました。
▲マコト眼鏡 増永昌司社長、増永由美子副社長
リブランディングの本質は、自己対話
和える 矢島:私たちは、答えは自らの中にあると考えています。だからこそ、和えるリブランディングの最大のテーマは自己対話です。答えをお渡しするのではなく、自らと対話するための問いを投げかける。外ではなく内に既に持っている答えを、言語化するお手伝いをする。第三者として壁打ち相手になるイメージです。
マコト 増永氏:リブランディングを通して、自分の中に考え方や問いかけ方がインストールされ、自己と対話する習慣ができたように思います。
家族経営だと尚更、「言わなくても分かるでしょ」と互いに甘えがあるのか、改めて言葉にする機会はほとんどありません。ですが、想いをきちんと言葉にすること、言語化を当たり前にしていくことは、小さな会社であればあるほど大切だと思うようになりました。
和える 矢島:2014年当時と比べて、意思決定が格段に早くなったと感じます。言語化によって、ブラントの真髄や哲学を互いに共有できているからこそ、無駄な話し合いがなく、本質的にやるべきことへの時間が確保できているのだと思います。
マコト 増永氏:誰が語っても、同じ『歩』が伝えられ、お客さまにも届くようになった手応えがありますね。
ブランドの本質を見出したら後継者候補が現れた
マコト 増永氏:昨年、思い切って新卒社員の採用を決めました。山形県の高校生が「『歩』をつくる職人になりたい」と門を叩いてくれたのです。眼鏡をつくる職人ではなく、『歩』の職人になりたい、と言ってもらえたことに、とても心打たれました。情熱を燃やすこのような若い方が来てくれたことは、ぶれない『歩』をリブランディングした、真の成果だと思います。
和える 矢島:過去を振り返り、本質を言語化すると、自然とありたい未来がやってくる。マコト眼鏡さんとご一緒させていただきながら、本当にそれを体現されているなと感じます
第二部 奈良の工芸が抱える課題とこれから
キックオフセミナー第二部では、奈良の工芸を担う方々をお招きし、奈良工芸界が今抱えている課題、そして未来についてお話しいただきました。
パネリスト
奈良県工芸協会理事長 奈良一刀彫「誠美堂」代表取締役 水川 丈彦(みずかわ たけひこ)様
奈良団扇「池田含香堂」6代目 池田 匡志(いけだ ただし)様
奈良の工芸をつないでいくべきか?
和える 矢島:工芸が生まれた当時と今、時代も環境も全く異なる中で、「この工芸をつないでいくべきなのか?」と悩まれたことはありますか。
水川氏:工芸がこれまで続いてきたのは、その時代ごとに需要があったからです。今は需要があるのでまだ成り立っていますが、少子化が進むにつれて、一刀彫のような節句祝いの人形は、当然需要も減っていきます。そういう将来への悩みはありますね。
和える 矢島:「少し先の未来」と「今」のギャップが、工芸に携わっているからこそ見えてくるのですね。確かに、お客さま側が「伝統=良いもの」と美化しすぎている面があると感じます。しかしそれでは、未来の課題は見えないままになってしまいます。
池田氏:私も「伝統だから残そう」という考え方は違うと思います。伝統だから残ってきたのではなく、いいものだから残ってきた。何より私自身も奈良団扇が大好きで、作り手である以前にファンの一人なんです。
これからも残っていけるように、伝統を守るだけではなく新しいものも取り入れ、純粋に「いいもの」として未来につないでいきたいですね。
▲奈良団扇「池田含香堂」6代目 池田氏
後継者育成にもイノベーションが必要な時代
和える 矢島:伝統を「守る」のではなく「つなぐ」ため、今どんなことに難しさを感じられていますか。
池田氏:現在、奈良団扇を作っているのは池田含香堂のみです。いいものを作るため、変革を起こし続けるためには、切磋琢磨する仲間、同業者の存在はやはり必要だと思います。
水川氏:私が修行した時代は、徒弟制度がありました。住み込みで修行し、厳しく叱られたり怒られたりするのが当たり前だった時代。しかし今は学校でも会社でも、そういった教え方が難しい時代になりました。
▲奈良一刀彫「誠美堂」代表取締役 水川氏
和える 矢島:時代が大きく変化した今、人をはぐくむ方法そのものにも、イノベーションが必要な段階に来ていますね。奈良の工芸界全体として、未来の後継者をはぐくむためにどんなことができるでしょうか。
未来を担う子どもたちへ、開かれた場を
池田氏:私が幼い頃は、工房が子どもたちの「遊び場」であり、生活の一部でした。モノづくりという仕事は、見て覚える・聞いて覚えるのが一番の近道。知らず知らずのうちに、私も遊びながら覚えていたんでしょうね。当時は、多くの工房がお店兼作業場で、自由に出入りできました。
和える 矢島:開かれた場所だったんですね。でも今はそういった場が少なくなってしまった。
池田氏:それはつまり、子どもたちがモノづくりを目にする、手にする機会が少なくなったということです。モノづくりの原点って、「かっこいい」「やってみたい」という憧れや夢だと思うんです。この心がはぐくまれる、モノづくりを肌で感じてもらえる機会が必要ではないかと思います。
和える 矢島:形式的に体験の場をにつくろうとするのではなく、開かれた場をつくる。それだけで、子どもたちは自らの感性で学び取っていくのかもしれませんね。
奈良の魅力、工芸の魅力を言語化するということ
和える 矢島:全国にも一刀彫、団扇はあります。その中で、奈良ならではの工芸の魅力、ご自身が向き合う工芸の魅力はどんなところにあるのでしょうか。
水川氏:社内や市内、内側だけを見ていると、なかなか魅力を言葉にするのは難しいですね。魅力や職人としてのやりがいを、お客さまから逆に教えていただくことも多いです。近頃は、お客さまの目が肥えてきたと感じることもありますが(笑)
和える 矢島:お客さまがある種、切磋琢磨する仲間のような存在なのかもしれませんね。
池田氏:いいものを作っていれば売れていた時代は終わり、なぜいいのか、どんな人がどんな工程で作っているのか伝える、見せることも大切になってきたと感じます。僕のような若手の職人もいると知ってもらうことも、切り口の一つになっているのではないでしょうか。
和える 矢島:作り手とお客さまとの対話によって、奈良の魅力、工芸の魅力がつながれてきた、そしてこれからもつながれていく。お二人のお話をお聴きして、そう感じました。
水川様、池田様、本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
水川氏:こちらこそ、ありがとうございました。
池田氏:ありがとうございました。
参加者からの感想・コメント
▼参加くださった方より
- 工芸に関わる異なった立ち位置の方々のお話が聞けたことで、偏りなくさまざまな見識に触れることができた
- 伝統工芸の未来にむけて、各関係者が一丸となって取り組む必要があると感じた
- 工芸作家の生の声が聞けた点が非常によかった
▼伴走支援に申し込みくださった方より
マコト眼鏡さんのブランディングの話がとても興味深かったし、矢島社長の「私たちは答えを教えるのではなくて、支援者の中にある答えを引き出すお手伝いをする」という考え方が自分の中でとても腑に落ちた
モノづくりに関わる全ての方へ、公開講座のご案内
SNSやメディアなどの有識者の方との双方向の講座を通じて、工芸のこれからについて考え、学ぶきっかけとなる公開講座を開催いたします。
公開講座は、奈良市内外に関わらず、モノづくりに関わる全ての方に参考にしてもらえる内容となっております。公開講座はオンラインでもご視聴いただけます。ご興味をお持ちの方は、ぜひご参加くださいませ。
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和えるでは、会社やブランドを末長く持続的に継承していきたいと考えていらっしゃる、経営者の皆様のお手伝いをする、“aeru re-branding”事業を進めております。
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