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奈良の工芸を次世代につなぐ伴走型支援 成果発表会~「原点」から見つめ直す工芸のこれから~

aeru re-branding

クライアント
奈良市観光経済部産業政策課さん、奈良商工会議所さん
業種
自治体
所在地
奈良県奈良市

奈良の工芸を次世代につなぐために発足した、「Nara Crafts’ Cross Project」。半年間にわたる和えるの伴走型リブランディング事業。行政が主体となり、予めゴールを定めず、対話を通して伴走型のリブランディング支援を行う。全国的に見ても新しいこの取り組みが、どのような実を結んだのか。

 

「課題はモノづくりではなく、”想い”づくりにあった」

「誰に向けてつくりたかったのか、改めて再確認できた」

「一人では踏み切れなかった挑戦ができた」

 

和えるの矢島を聞き手に、今回の挑戦者である工芸作家4名の皆さんにお話しを伺いながら、伴走型リブランディングの内容や成果を、余すところなくお届けします!

Nara Crafts’ Cross Projectについて

Nara Crafts’ Cross Project とは、“次代の工芸作家のフロントランナーを創出する”をコンセプトに、次代の工芸作家の活躍を多面的に支援するプロジェクト。「伴走支援×公開講座×販路拡大」と3つの切り口から構成されています。

Nara Crafts’Cross Projectでは、昨今の変化の激しい時代の中でも自分自身のビジョンや戦略を見据え、工芸活動を営む方々に対し、経営やブランディング、マーケティングというアプローチからの多角的な支援を通じて、工芸作品や技術を新たな時代につなげていくための取組を行います。

第一部 課題やゴールは四者四様。それぞれの伴走支援とは

成果発表会第一部では、採択対象の工芸作家4名の皆さんに、それぞれの伴走支援を振り返っていただきました。

課題は「ものづくり」ではなく「想いづくり」だった

パネリスト

岡井大祐(おかい だいすけ)氏。奈良晒「岡井麻布商店」6代目。

和える 矢島:和えるの伴走型リブランディング支援は、本筋の流れはありつつも、実はお一人おひとり進め方が異なります。対話を重ねながら、まずは一緒に課題を見出していきましょう、というもの。伴走支援が始まった当初を振り返って、いかがでしょうか。

岡井氏:「課題」と言われてもはじめは漠然としていて、私もどうしたらいいか分からずにいました。それでも、対話を進めていく中で、課題は「ものをつくる」ことにあるのではなく、「想いをつくる」ことにあるということが分かってきました。

和える 矢島:ものをつくる手を敢えて止め、一緒に立ち止まって、これまで歩んできた過去を振り返る。工芸のリブランディングというと、商品開発やものづくりの方につい目が行きがちですが、まずは企業やブランドが、どんな想いで生まれてきたのかを言語化してみる。木に例えると、「幹」の課題を解決することで、「枝葉」の問題も自然と解決されていくのですよね。

和える 矢島:岡井さん自身、岡井麻布商店の原点を振り返ってみて、いかがでしょうか。

岡井氏:もともと機(はた)を織る織元だったということに立ち返りました。「川上から川下へ」という言葉がありますが、元は川上、つまりものづくりが原点だった。そこに気がついた時、やはり機を織って生地を見つめ直すことが、岡井麻布商店にとって一番大切なことだと分かりました

和える 矢島:原点に立ち戻ることが、実は未来の進み方を決める手がかりになる、ということなのですよね。

半年間のセッションを通して、特に印象に残っていることは何でしょうか。

岡井氏:岡井麻布商店を擬人化して捉えてみたことですね。「MAFFU(マッフー)」という名前をつけました。MAFFUがどんな人柄で、どんな色が似合うのか、どんな生活をしているのか。不思議とどんどん考えが浮かびました。MAFFUの輪郭がはっきり見え、それが、今後の商品づくりや活動における、指針となったと思います。

 

今つくっているモノは何なのか。誰に向けてつくりたかったのか。再確認、言語化できた

パネリスト

池田 匡志(いけだ ただし)氏。奈良団扇「池田含香堂」6代目。

和える 矢島:伴走型リブランディング支援全体を振り返ってみて、いかがでしょうか。

池田氏:第三者に聴いてもらえると、自分の思っていたことがこんなにも整理できるのだと感じました。また、「自分はこんなことを思ってみたかったのだな」という気づきもありました。そして何より、自分の口からそれらを出させてもらえる、という感覚がありました

和える 矢島:私たちが答えを持っているわけではないですし、ましてや答えを押し付けることはできない、と思っています。あくまでも、壁打ち相手であることを、和えるの伴走型リブランディング支援では大切にしています。

和える 矢島:池田さんの課題は、「新ブランド立ち上げにあたっての方向性」でした。ここでも、まず着手したのは「奈良団扇の定義の整理」。商品開発ではなく、まずは木の幹、想いの整理です。

池田さん、何か印象的なエピソードはありますでしょうか。

池田氏:そもそも、今つくっている奈良団扇は誰に向けて作っているのか、誰に向けて作りたかったのかを、整理しました。誰よりも奈良団扇のことを語れると自負していましたが、今自分たちがつくっているものを改めて再確認し言語化できたことは、自分にとって大きかったですし、同時にとても嬉しかったですね。

和える 矢島:奈良団扇の定義を整理したことが、その後の思考のヒントになったように感じます。

池田氏:工芸作家という立場上、「こういうモノがつくりたい」という想いがありますし、それがなければいいものづくりはできないとも思っています。ただ、そればかりでは、使い手の想いに寄り添えていないかもしれない。もしかすると、これまでは、自分がつくりたいものを押し付けていたのではないか。そんなことを考えるきっかけとなりました。

和える 矢島:ご自身のそんな想いに出逢うことができたのも、一度立ち止まり、奈良団扇の定義を考えたからこそなのかな、と思います。

新ブランドの立ち上げは、既存の奈良団扇の定義を離れ、定義そのものをつくるという挑戦だったかと思います。新ブランドについての想いを教えてください。

池田氏:どの層のお客様にも奈良団扇を知ってほしい、という私自身の強い想いがあります。だからこそ、これまで奈良団扇に触れる機会のなかった10代、20代の方々にも手に取ってもらえるよう、若い世代の方がどんなことを求めているのか、突き詰めて考えました。従来の良い奈良団扇の定義「どれだけ良い風が来て、長持ちするか」ではなく、「どれだけ華やかに見えるのか、周りからの興味関心を得られるか」。「写真映えするか」「持ち歩けるか」など、新しい定義を設定しました。

伝統的な奈良団扇も大切にしながら、新しい奈良団扇をお届けしていきたいですね。

和える 矢島:方向性がしっかりと定まり、あとは着手するのみですね。楽しみです。

 

「本当にやりたいことは何ですか」作家としてどうありたいのかを見つめ直した

パネリスト

大塩(おおしお)まな氏。赤膚焼作家。

和える 矢島:大塩さんの設定された課題は、「作家として経済的に自立し、活動していきたい」ということでした。

大塩氏:これまで家族経営という環境で、父という師匠のもとで活動してきたところから、ひとりの作家として、これからどうしていくべきなのか。作家として表現したい世界観を言語化したり、どうやってそれを発信していくか、という点に焦点を当てて伴走いただきました。

和える 矢島:経済的に自立するというのは、多くの作家の方々の共通課題であるように思います。でも向き合わずにいると、「守られなければ成り立たない」伝統工芸のままになってしまう。私たちも、伝統とは守るものではなく、人の役に立つからこそ生かされてきたもの、と考えています。大塩さんの課題設定は、工芸の本質に向き合うことでもあったように感じます。

特に思い出深いトピックがあれば、教えてください。

大塩氏:大塩さん自身がやりたいことは何ですか」という問いが印象に残っています。その問いから深掘りしていくと、自分が一従業員から一作家として自立していくことが、窯全体のためにも、そして将来の赤膚焼のためにもなる、という考えに至りました。

以前から苦手意識を持ってきた値段設定についても、考えが変わりました。作品が持っている価値は、自分自身が一番知っている。だからこそ、その価値を分かりやすく示す、適正な価格をつけることが、作家としての重要な役割だと腹落ちしました。

和える 矢島:伴走型リブランディング支援の中でご一緒した、Instagramアカウントの開設や設計についてはいかがでしょうか。

大塩氏:自分の作品を発表する場を持ちたいと思い、開設しました。大切にしたのは、ハードルを下げること。作品の背景やハッシュタグなど、これまでSNSをあまり活用してこなかった自分でも続けやすい、シンプルな運用ルールを決め、まずは続けることを目指しました。

和える 矢島:これから大塩さんのInstagramアカウントがどのような発表の場に進化していくのか、私たちも楽しみです。

 

一人では踏み切れなかった、型の製作。背中を押してもらえた

パネリスト

菅原尚己(すがはらなおき)氏。赤膚焼作家。

和える 矢島:工房にお伺いしたとき、「作品用の型をつくる時間がない……!」とおっしゃっていたのが印象的でした。

菅原氏:目先の仕事に追われ、作家としての作品づくりになかなか注力できない状況でした。伴走型リブランディング支援を通して、一度立ち止まって作風を言語化したり、それをパンフレットに落とし込んだり。何より時間のバランスを見直せたことが大きかったですね

和える 矢島:作品用の型作りの時間をつくったことで、どんな変化があったのでしょうか。

菅原氏:型作りには実は抵抗がありました。作家として、全く同じものをつくることは避けたかったからです。でも、セッションを通して、型を使うところは使いながらも、手をかけて一点ごとの差を出すことができることに気がつけました。

例えばメジロの作品は、一からつくると丸4日間はかかりますが、型を取り入れたことで同じ日数で5,6体つくれるようになりました。その分、つくりやすい柿の部分に変化をつけ、手しごと感も残すことにこだわれました。

和える 矢島:製作時間をぎゅっと圧縮しつつ、ご自身のこだわりも捨てない解決策が見出せたのですね。

菅原氏:私一人では踏み切れなかった型の製作が実現できたのは、セッションを通じて自身の作風や大事にしている考えを言語化できたからかもしれません。

第二部 「進むべき道ではなく、歩き方を教えてもらえた」伴走型リブランディング支援

第二部は、採択者4名の皆さんによるクロストークをお届けしました。伴走支援を終えた今、次なる挑戦者へ何を伝えたいか。自由にお話しいただきました。

立ち止まり、答えが出るまで自ら考え続ける

池田氏:初めのうちは、私も含めて皆さん、「伴走型リブランディング支援と言っても何をやるのだろう?」という感覚だったのではないでしょうか。ですが半年間のプログラムを終えた今、自分以外の目と口、つまり色んな方から客観的に見て聞いてもらえる場は本当に貴重だったな、と。そんな場の設計、提供を今後の奈良工芸界にも期待します。

菅原氏:私も、師匠のもとから独立したばかりのタイミングで支援を受けられたからこそ、言語化を通して今後の方向性が整理できたと感じます。

和える 矢島:言語化の大切さは、私たち和えるも強く感じ大切にしていること。皆さんお一人おひとりが同じように感じてくださったのは、とても嬉しいです。

大塩氏:採択前のキックオフセミナーで「リブランディング」と聞いた時は、売上や流行といった外部のニーズが先にあり、そこへ自分の作品を投入していく、という思考方法なのだろうと想像していました。でも、和えるさんのリブランディングは全く逆だった。まず作品や作家の想いありきで、自分がどういう世界観を届けたいのかを言語化することでした

これからどのように進むべきかを、一方的に教えてもらうのではなく、一緒に作り上げてもらえた、まさに「伴走」だったと感じます。「この道を進んでいけば着きます」ではなく、歩き方を教えてもらった感覚です。

和える 矢島:伴走型リブランディング支援を終えた後、自分で歩けること、そして迷ったときに立ち戻れる場所を一緒にはぐくむこと。まさに和えるが目指しているところであり、そう感じていただけて本当に嬉しいです。

岡井氏:答えは自分で考える、答えが出るまで考える、というのは実際にはとてもしんどいことでした。でも、誰かがくれた答えでは、自分は変わらない。

答えが出るまで考え続ける、そのために立ち止まる機会は、なかなか普段得られないことだったと思います。少しでも迷いや興味がある方がいらっしゃったら、ぜひチャレンジしてほしいですね。

各界のプロと1対1で対峙できた、公開セミナー

池田氏:どんな講座を受けたいかを事前にヒアリングしてもらえたので、以前から学びたいと思っていたSNSの発信を学べたのが良かったですね。写真の取り方や、自分のアカウントが第三者にどのように見られているかを知る、とてもいい機会となりました。

菅原氏:私も、「SNSを通したファンづくり」の回では、プロの方に背中を押してもらえたことが大きかったです。自身のSNSアカウントの悩み(投稿する作風によってフォロワーの増減がある)を相談したとき、「そのままでいい」と言っていただけたことで、とても楽になりました。

大塩氏:セミナーの中で、講師の方から直接フィードバックがもらえる、プロのバイヤーへの公開商談会や、雑誌メディア編集長への公開商談会の機会がありました。聞いて終わりという受け身の講義ではなく、明日から使える実践的な内容だったと思います。

岡井氏:以前から書籍を読んで知っていたような講師の方が来てくれ、驚きました。しかもそういった講師の方へ自分のブランドを売り込む機会は、なかなか有難いものでした。

和える 矢島:その道のプロ、一流の方をお招きすることで、何より言葉の力を受け取れるんですよね。「実際に役に立てていただけるかどうか」にこだわってセミナーを組みましたので、皆さんにとって、有意義なセミナーとなっていれば嬉しく思います。

(その他、公認会計士・税理士に学ぶ「ブランドを支える経営」も開催)

 

質疑応答

質問者:「言語化」がキーワードになっていたと思いますが、次世代に伝統をつないでいく上で、どのように伝えていきたいとお考えでしょうか。

池田氏:言語化は確かに大切ですが、言葉だけで伝えていくのは正直難しいと感じます。人がやっていることを自分の目で見る、耳で音を聴く。私自身、そういった幼少期の五感での習得が、今のモノづくりの糧になっています。ですので、やはり自分でやってみる、繰り返し失敗する、というプロセスも重要だろうと。

言葉で伝えられるところは伝え、感覚的なところもフォローしながら、その両立をバランスよくやっていくことが大切だと考えています。

質問者:「家族経営」という言葉も印象的でしたが、少子化傾向の中で難しい面もあると思います。家族以外の方へ継承することについては、どのようにお考えでしょうか。

岡井氏:私は、技を継承していく上では、家族以外の方への継承も必要だと考えています。

大塩氏:私も、大切なのは血縁よりも、目に見えないモノをどれだけ自分の中に取り込めているかどうか、だと思います。

工芸界では「見て盗め」とよく言われますが、それはつまり、自らの感覚で掴んで「自分のモノにする」ということ。生活を共にする血縁者は、確かにその意味では有利ですが、絶対条件ではないと思います。自分の目で見て、足りない部分を言語化していくことが大切なのではないでしょうか。

質問者:今回の伴走型リブランディング支援には、自ら進んで参加されたのでしょうか。

菅原氏:私は、奈良市の産業政策課さんから事業について伺ったことがきっかけでした。ちょうど誰かに助けてほしいと思っていたタイミングでしたので、まさに今の自分にぴったりだと思い応募しました。

大塩氏:キックオフセミナーに登壇されていた、伴走型リブランディング支援実践者の方が「少しでも興味があれば、ぜひチャレンジしてみてください」と言われていたことが印象に残り、参加を決めました。

池田氏:率直なところ、最初は懐疑的でした。もし繁忙期であれば参加しなかったかもしれません。時間をかけて参加するということはつまり、我々職人にとって「モノをつくらない期間」となります。「何をするのか、よく分からないことに時間を割くべきなのか」という気持ちもありましたが、それでも、参加して本当に良かったと今感じています。

岡井氏:官民共同のプロジェクトという点で興味がありました。始める前は池田さんと同じく私も懐疑的でしたが、挑戦すると決めたのは自分。参加するからにはやり切ろうと思いましたし、こうして工芸作家仲間ができたのも嬉しく思います。

和える 矢島:それでは、最後に皆さん一言ずつ、メッセージをお願いします。

岡井氏:これで終わりではなく、1年後、またこれだけ成長した、と皆さんに胸を張って言える自分でありたいと思います。

池田氏:本当に多くを学ばせていただきました。歴史のある奈良団扇ですが、後世に伝えていくのは自分。これからも良いモノをつくり続け、そして新しい奈良団扇を多くの方に知っていただきたい、と気持ち新たにしました。

大塩氏:今回整理ができた「一作家としての世界観」を大切に、自分らしい赤膚焼をつくっていけたらと思っています。

菅原氏:時間の使い方や、モノづくりの手を一度止めて考える大切さを学びました。今後も行き詰った時には、言語化するというプロセスを自分でも実践したいと思います。

和える 矢島:皆さん、半年間伴走させていただき、本当にありがとうございました。

伴走型リブランディング支援に、ご興味をお持ちの方へ

地域の工芸や地場産業をさらに盛り上げ、官民一体となって次世代の活躍を支援していきたい。和えるでは、そのようなお考えをお持ちの自治体様をお手伝いをする、伴走型リブランディング支援事業を進めております。

同一の工芸や産業でも、抱える課題は千差万別。和えるの伴走型リブランディング支援では、お一人おひとりとの対話を重ねることによって、会社やブランド、モノづくりの原点に立ち戻り、「自分たちは何のために存在しているのか。」その本質を問い直し改善策を共に考案、未来へつなげるための具体策を提供いたします。

また、各業界からプロの講師を招いた公開講座の設計やイベント企画、メディアへのアプローチなど、様々な角度でお手伝いさせていただくことが可能です。

和えるの伴走型リブランディング支援事業へご興味をお持ちの方は、お気軽にこちらまでお問い合わせくださいませ。

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